はじめに|“火消し役”に限界を感じた日
広告制作の進行管理をしていると、トラブル対応で終わる日がある。
営業からの無茶振り、
制作の遅れ、
詰まりきったスケジュール。
僕も新人時代はそんな“火消し役”として残業続きの日々を過ごしていました。
でもあるとき、ふと思ったんです。「これ、10年後も続けられるか?」と。
「火を消すこと」は一時的な安心をもたらしますが、
根本的な課題は何も解決していません。
だからこそ、僕はその日から「火を消す人」ではなく「火が起きないように設計する人」になろうと決めました。
そのとき取り入れたのが、“逆算”をベースにしたスケジュール設計でした。
今回は、僕が20年かけて身につけた「逆算術」の考え方を、
初心者向けと上級者向けで対比しながら解説します。
ただのノウハウではなく、「逆算」の本質に触れたい方へ向けた記事です。
スケジュールの「意味」の捉え方
初心者は「工程を並べること」が目的
初心者の逆算は、スケジュール=“段取り”と捉えがちです。
- 何日かかるかを見積もる
- どこにバッファを入れるかを決める
- 順番通りに並べてミスなく進める
つまり、「ToDoの整理」としての逆算です。
このアプローチだけでも、納期に間に合う可能性は大きく上がりますし、
現場で信頼される第一歩になります。
ただ、これはあくまで“守りのスケジュール”です。
上級者は「構造を設計する」ために逆算する
一方、上級者にとってスケジュールは、“設計図”です。
しかも、その設計には目に見える工程だけでなく、
以下のような「見えない前提条件」も組み込まれています。
- クライアントの意思決定の癖やスピード感
- 社内のボトルネック(誰が詰まりやすいか)
- 修正回数の予測と対応リソースの確保
- 営業の力量や不在日によるリスク
こうした条件を踏まえて、スケジュール全体の構造を設計していく。
つまり、スケジュールは未来のリスクを制御するための設計物なのです。
見た目は同じスケジュール表でも、
初心者と上級者では「意味のレイヤー」がまったく異なります。
クッション日の扱い方
初心者は「遅れに備える」ために入れる
- 何かあったときに備えて1日余裕を見ておこう
- 修正が多くなりそうだから多めに見積もっておこう
こうした“バッファ思考”はとても大事です。
むしろ最初のうちは、すべての工程に1〜2日クッションを入れるくらいが安全です。
これにより、突発的な遅れにも冷静に対処できるようになります。
上級者は「人を動かすための戦略」として使う
上級者にとってクッション日は、
単なる予備日ではありません。
- あえて短めの期限を提示し、実際よりも余裕をもたせる
- 営業や制作に「これくらいならできそう」と思わせる心理的効果を狙う
- トラブル対応のための“交渉カード”として残しておく
つまり、クッション日は戦略的に相手を動かすための仕込み。
自分が動きやすくするための「心理的・構造的余白」として使うのです。
トラブル対応の発想
初心者は「どうにか間に合わせる」
- 自分ががんばることで乗り切る
- 無理して巻き取ってしまう
気持ちは立派ですが、これを続けるといつか潰れます。
体力も気力も、いずれ限界がきます。
上級者は「構造に問題がないか再設計する」
- なぜこのトラブルが起きたのか?
- どの工程に無理があったのか?
- 次から避けるには、どう仕組みを変えるべきか?
トラブルは、単なる“火種”ではなく、
“未来の仕組み改善のタネ”です。
感情で反応せず、冷静に構造を見直す。
この姿勢が、上級者への道です。
スケジュールは交渉の武器になる
初心者は「守るべきノルマ」として使う
- この日までに初稿を出さなきゃ
- 修正は今日中に返さなきゃ
こうしてスケジュールに縛られ、自分自身が追い込まれていきます。
上級者は「交渉と調整の根拠」として使う
- 「この工程にこれだけ時間が必要です」
- 「ここが詰まってるので、この日までは動けません」
逆算表があることで、感情論ではなく“事実ベース”で話せます。
納得感のある説明ができることで、無理な要求を避けやすくなります。
つまり、スケジュールは自分を守る防具にもなるのです。
番外編|上級者の逆算は“別物”と心得よ
ここまで初心者と上級者の違いをいくつか紹介してきましたが、
実は“上級者の逆算”には、もう一つ重要な視点があります。
それは、上級者の逆算は「関係性」と「責任」を前提に成り立っているという点です。
たとえば、彼らはこんな要素まで加味してスケジュールを設計しています。
- クライアントと社内メンバーの力関係
- 担当者の性格や過去の対応傾向
- 想定されるリスクや“地雷ポイント”の事前把握
つまり、空気を読んで、トラブルを未然に潰すのが本物の逆算術なのです。
形だけ真似すると、むしろ逆効果
ただし、これを若手が“形だけ”真似しようとすると、危険です。
なぜなら、信頼も裁量もないうちに動こうとしても、
関係者が動いてくれずスケジュールが破綻してしまうから。
だからこそ、最初にやるべきは――
- 基本の逆算思考を身につける
- 小さな成果を積み重ねて信頼を得る
- 「この人のスケジュールなら信じて動ける」と思わせる
この順番を飛ばさないことが、上級者への最短ルートです。
まとめ|逆算とは「未来を制御するための設計」
初心者にとって逆算は、
工程を丁寧に並べてミスを減らすための方法。
でも上級者にとって逆算とは、
未来のリスクや関係者の動きを制御し、
トラブルさえも設計で回避するための武器です。
逆算術は、万能スキルではありません。
経験・信頼・責任の裏付けがあるからこそ、
威力を発揮するものです。
まずは目の前の案件から、
「ゴールから5ステップで逆算」を実践してみてください。
段取りに支配されるのではなく、
段取りで現場を支配する側へ。
あなたも“火消し役”から、
“設計者”へと進化していきましょう。
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