はじめに:手戻りが進行管理の“敵”である理由
「やっと終わった…と思ったのに、また戻ってきた…」
進行管理に携わる者なら、一度は味わったことがあるあの絶望。
広告制作の現場では、「手戻り」=最大のムダです。納期が延び、制作チームは疲弊し、クライアントからの信頼も失われかねません。
私自身、進行管理歴20年の中で、1つの小さな確認漏れが原因で3日間スケジュールがズレ、営業・デザイナー・クライアントすべてに謝罪する羽目になったことがあります。
でも裏を返せば、事前確認を徹底するだけで、8割の手戻りは防げる。
今回は、現場で培った「事前確認の極意」と、「先回り力」や「全体俯瞰力」といった“プロの上級技術”まで、惜しみなく公開します。
第1章:なぜ手戻りは起きるのか?よくある原因5選
進行管理の「手戻り」は、単なるうっかりミスだけでなく、構造的な原因も多く含んでいます。
1. 情報の伝達ミス
口頭伝達・感覚的な共有が多い現場では、同じ内容を複数人が違う意味で捉えてしまうことが頻繁にあります。
2. 要件の曖昧さ
「なんとなくOK」「とりあえず進めて」という言葉が飛び交う現場は危険。“誰が”“何を”“どう判断するのか”を明確にしないと、戻るのは目に見えています。
3. 確認者がバラバラ/ルート不明
デザインはAさん、文言はBさん、でも最終判断はC部長…というように、確認者が複数いて、なおかつその情報が共有されていないと、確認そのものがやり直しになります。
4. 制作指示の曖昧さ
「いい感じで」「おしゃれに」など抽象的な表現では、意図が正確に伝わりません。結果、修正→手戻りのループに。
5. クライアントの意図の読み違い
特に経験の浅い進行管理者がやりがちなのが、“形式的な確認”だけを行い、クライアントの真の目的や意図を読み取れていないこと。
原因 | よくある現場の様子 | リスク |
---|---|---|
決定権者の確認漏れ | 「この人OKって言ったけど…最終決定は部長だった」 | 全面やり直し |
曖昧な指示 | 「おしゃれに仕上げて」 | 解釈が人によってバラバラ |
情報共有の不足 | 「営業には言ったよね?」「制作には聞いてない!」 | 伝言ゲーム状態に |
クライアントの意図の誤解 | 「資料どおり作ったのにNG」 | 背景や目的がズレてる |
校正・チェックのルート不明 | 「誰がOK出すの?」「この順番で良かったっけ?」 | フローの二度手間 |
第2章:「事前確認」で8割防げる!私が実践してきた極意とは
事前確認は、単に「漏れがないかチェックする」というだけでは不十分。“確認の質”と“相手に応じた工夫”がプロの違いです。
【極意1】“確認者の顔と名前を明確にする”
誰がGOサインを出すのか。それが分からないと、どれだけ確認しても無意味になります。
最初に「決定権者」を特定し、関係図を見える化しましょう。
【極意2】“Wチェックのタイミングを固定化”
私の現場では「初稿提出前」と「最終入稿前」にWチェックを必ず入れます。
ルール化しておくことで“漏れ防止”の仕組みが回るようになります。
【極意3】“伝え方は『確認点→理由→結論』の順で”
「ここだけ見てください」ではなく、“なぜこの確認が必要か”を伝えると、相手の確認精度が格段に上がります。
【極意4】“過去の修正履歴から傾向を予測”
私の社内メモには、各クライアントの“修正傾向”が残っています。例えば、「〇〇社は色に敏感」「△△部長はキャッチコピーの語尾にこだわる」など。これを事前に共有しておくだけで、初稿の精度が上がります。
【極意5】“要件と意図のズレを初回打ち合わせでつぶす”
「仕様通り」ではなく、「目的通りか?」を確認する。表面上の“要望”ではなく、“背景の目的”に注目する姿勢が重要です。
進行管理初心者が「手戻り」を減らすには、以下の確認をルーティン化するだけでも大きく変わります。
◆ ステップ1:決定権者を明確にしておく
→「誰がGOを出すのか」だけは、最初の打ち合わせで必ず確認。役職よりも“実際に決める人”を把握。
例:「営業部長が決裁者」と聞いていたのに、実際はマーケ部長が一言NGを出して全修正になった…
◆ ステップ2:「何をどう確認してほしいか」を伝える
→「ここを見てください」だけでなく、「なぜそこを見てほしいか」「ここを直すと全体に影響する」など背景と理由もセットで伝える。
例:「写真は差し替え可能です。急ぎのため、他の要素を先にご確認いただけますか?」など調整の余地も含めて提示
◆ ステップ3:初稿前に“確認のクセ”を把握
→ クライアントや上司には**「こだわるポイントのクセ」がある**。初稿提出前に過去の修正傾向を把握しておくと◎
例:「この部長は言い回しの語尾が気になるタイプ」→初稿からその視点で整えておく
第3章:事前確認を仕組みにする!私のチェックリスト公開
確認は「気をつける」では続きません。習慣化・仕組み化がカギです。ここでは、実際に私が使用しているチェックリストの一部をご紹介します。
進行管理用チェックリスト(制作開始前)
- クライアント名・部署・決定権者の確認
- 表記ルールの有無
- 入稿仕様(サイズ、形式、カラー)
- 校了フローの確認(誰が最終OKを出すか)
デザイナー指示チェックポイント
- 素材の有無(提供済・未提供)
- トーン&マナー/レギュレーション有無
- 色指定、フォント指定
- コピーの整合性
営業・クライアント用レビュー依頼時
- 「ここを重点的に見てほしい」と明示
- 修正可能範囲(納期・予算の観点)を明記
- 過去の修正傾向に配慮した提案
ここからは、経験がないと気づきにくいけど、超重要な“上級テクニック”を分かりやすく紹介します。
1. 決定権者の性格・傾向を理解する
- 形式的な会議では静かでも、実は裏でストップをかける人
- 対面での説明を重視するタイプ
- 指摘されると反発するタイプ
→ 「何を言うか」よりも「どう伝えるか」が鍵。確認にも“人間関係の調整力”が問われます。
2. 問題が起きそうな箇所を先に洗い出す
→ 進行管理は“問題予報士”。「あ、この文言きっと引っかかるな」と予測し、先回りで修正案を用意します。
例:入稿ギリギリで「この赤はNGだった」とならないよう、印刷会社の基準に合わせて事前に代替案も提示しておく
3. はじめから最後までを想像しておく
→ 目の前の「今」だけでなく、「最終確認」「納品後の掲載」「校了ミス時の影響」まで一連の流れを想像しておくことが重要。
例:バナー1つ作るだけでも、「クリック先の導線」「サイズ展開の有無」「掲出メディアの色味制限」まで意識
4. 全体像を俯瞰してみるクセをつける
→ スケジュール表、関係者リスト、チェックフロー…すべてを一枚の紙にまとめて視覚化。これが「何をいつまでに、誰に」伝えるかの軸になります。
5. 優秀じゃない人が関わっているときは“支える視点”で動く
→ スキルの差は当然ある。責めるのではなく、「この人には確認が必要」と補完・調整を先回りする力が信頼につながる。
例:「新人デザイナーが担当」→提出前に一度だけ一緒に確認、で大きなミスを未然に防げる
第4章:さらに手戻りを防ぐ“上級者の技術”
ここからは、単なる「事前確認」を超えた、**ベテランならではの“手戻り防止テクニック”**を紹介します。
● 決定権者の性格・傾向を把握する
例えば、「メールより対面で話すと通りやすい人」「指摘されると不機嫌になる人」など、決定権者には“確認の仕方”も調整が必要です。私は最初の打ち合わせで必ず「その人の決定パターン」を観察しています。
● 問題が起こりそうな箇所を先に潰す
「たぶんここで止まる」「この人はこの文言で反応するだろう」…問題が起こる“未来予測”をして先手を打つ。この「想像力」が進行管理の本質です。
● 全体像を俯瞰し、はじめから最後までを“想像する力”
スケジュール、関係者、制作物、チェックフローすべてを一枚の絵に描くように俯瞰できると、途中での迷いや手戻りは激減します。私の場合、「校了後の掲載メディア」まで頭に入れて進行しています。
● 優秀じゃない人が関わっていたら、都度声かけ&フォロー
誰もが優秀とは限りません。“あの人が関わるなら、念のためこの部分だけ見ておこう”という視点は非常に重要。責めるのではなく、“仕組みでカバー”する意識を持つことで、チーム全体のパフォーマンスが安定します。
第5章:それでもミスが起きたときのリカバリー術
どれだけ万全を期しても、ミスはゼロにはなりません。その時にどう動けるかがプロの進行管理の腕の見せ所です。
- 事実をすぐに整理・共有:責任追及よりも「今なにが起きているか」を冷静に伝える
- 影響範囲を瞬時に見極める:納期、コスト、信頼への影響を言語化
- 報告の順番と文面に注意:「すぐ直せるか」「リスクはどこか」「次はどう防ぐか」を整理して報告
- ミスを“仕組み”に変える:同じ失敗を繰り返さないよう、チェックリストやマニュアルに反映
【おわりに】確認力は「信頼力」。地味だけど全体を救う力になる
手戻りを減らすための確認は、決して「ミスを恐れて慎重になる」だけではありません。
- チームを守る
- 信頼を築く
- 全体を加速させる
という“攻めの武器”になります。
あなたが今やっている「事前確認」。
もしそれを、全体像で俯瞰し、相手ごとに工夫し、未来の問題に先回りして行えたら?
その時あなたは、ただの進行管理ではなく、「全体を導くキープレイヤー」になっているはずです。
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