はじめに|“営業 兼 進行管理”が当たり前だった広告現場
広告業界において、「営業が進行管理まで担う」という働き方は、少し前までは当たり前の光景でした。
僕自身も新人営業だった頃、クライアントへの提案から原稿制作の手配、スケジュール調整、見積書作成、請求処理まで、すべて一人でこなしていました。
制作との打ち合わせも、社内調整も、突発対応も、ぜんぶ自分。まさに“何でも屋”でした。
当時はそれが普通だと思っていたし、仕事に対する責任感もありました。
でも、時代は変わってきています。
今では進行管理という専門職が定着し、「営業と進行管理を分業すべきか?」「それとも兼業の方が効率的か?」といった議論が増えてきました。
この記事では、実際に営業→進行管理のキャリアを経験した僕が、兼業のメリット・デメリットをリアルな視点で解説しつつ、将来の働き方についても考察していきます。
1. 営業が進行管理を兼ねるメリットとは?
1-1. 顧客対応のスピードが段違いに速い
兼任の最大のメリットは「スピード感」。
営業が進行管理も担っている場合、クライアントからの要望や変更に即対応できる強みがあります。
たとえば、
「この写真、ちょっと変えてもらえる?」
「納期、1日早くならない?」
こういった要望に対して「確認して折り返します」ではなく、「今、制作に確認してすぐ戻します」とその場で動ける。
この“即応性”は、信頼構築に直結します。
1-2. 意思決定が早く、プロジェクトが止まらない
営業が進行も兼ねていれば、現場で判断できる範囲が広く、ちょっとした変更であれば即断即決が可能。
たとえば、デザイナーから
「こっちの色の方がクライアント好みだと思うけど、どう?」
と聞かれた時も、わざわざ営業に確認を取らず、自分で判断できる。
この“ボールを止めない”進め方は、広告のように納期がタイトな業界ではとても重要です。
1-3. 原価・コスト意識が強くなる
営業は基本的に売上責任を持ちますが、進行管理を兼ねることで原価感覚が強くなります。
たとえば、「ここを外注に出すと5万円かかるな。でも社内でできればゼロ円だな」と判断して、無駄な出費を防ぐようになる。
僕自身、兼任時代は「できるだけ利益率を上げる」ことを強く意識していました。
これは、売上だけ見ている営業では気づきにくい感覚かもしれません。
2. 営業が進行管理を兼ねるデメリット
2-1. 業務量が多すぎて、どっちつかずになる
最大のデメリットは「業務過多」。
進行管理の仕事は地味で細かく、タスクが多い。
- スケジュール調整
- デザイン指示
- 原稿チェック
- 校正対応
- 社内調整
- トラブル対応
これを営業活動と並行してやろうとすると、どうしても時間が足りません。
結果、クライアントへの提案が浅くなったり、制作物のチェックが甘くなったりと、“どっちも中途半端”になりがちです。
2-2. 外出中に進行対応ができない
営業が多忙な時期には、日中はほぼ外出か打ち合わせ。
その間に進行管理業務が滞ってしまうのは、大きなリスクです。
特に、制作チームからの確認依頼や原稿の修正が発生したとき、営業が不在だとプロジェクト全体が止まってしまう。
現場では「いつまで経っても戻ってこないから困る」という声もよく耳にします。
2-3. 情報共有が属人化する
営業が進行も担っている場合、すべての情報がその人の中に閉じてしまうリスクがあります。
「この案件、どこまで進んでる?」
「次の提出っていつ?」
「校了済みかどうか、誰か把握してる?」
こうした情報が共有されないと、チームとしての連携が弱くなり、トラブル時の対応力も落ちます。
3. 分業体制のメリットと、現場の変化
進行管理という職種が定着したことで、最近は「営業と制作の間に進行管理を置く」という分業体制が増えてきました。
僕がいた会社でも、営業と進行管理を明確に分けることで、次のようなメリットが生まれました。
3-1. プロフェッショナルが本領を発揮できる
営業は営業に集中。進行管理は進行に集中。
それぞれの専門性を活かした動きができることで、業務効率も成果も上がります。
僕が進行管理を担うことで、営業は提案書作成や企画にじっくり時間をかけられるようになりました。
3-2. チームで回す文化が根付く
分業体制にすると、情報共有が必要不可欠になります。
その結果、自然と「チームで進める文化」が根付きやすくなります。
属人化を防ぎ、誰が休んでも業務が回る“組織力”が身につくのです。
4. では、将来は兼業?分業?どっちがいいのか?
結論から言うと、完全な分業化ではなく、「分業+連携」が理想です。
【理想の体制】
- 営業は提案・折衝・戦略に集中
- 進行管理はスケジュール・制作対応に集中
- ただし、互いの業務もある程度理解しておく
つまり、「分かれているけど、お互いが理解し合っている」という状態。
進行管理が営業の意図を理解して動ける。
営業が進行管理の負荷や細かさを理解して、無茶な依頼をしない。
この“ゆるやかな分業”が、今後の広告業界ではスタンダードになっていくと僕は考えています。
5. 僕が実践している「ゆるやか分業スタイル」
現在、僕は進行管理職として働いていますが、営業経験があるからこそ、営業の意図や苦労がよくわかります。
その経験を活かして、以下のような連携を意識しています。
- 営業のスケジュールを見て、自分が代わりに対応できる部分は先回りして処理
- クライアントの意図が不明な場合、営業に確認せずに進めないようにする
- 営業が見積もり作成で手一杯のときは、下準備を手伝う
このような関係性が築けると、営業も進行管理もストレスが減り、クライアントにも良い印象を与えられます。
6. まとめ|両方の視点を持つ人材は“代えが利かない”
営業も進行管理も、どちらも大変で、どちらにも専門性があります。
でも両方を経験した人材は、その“橋渡し役”として非常に重宝されます。
僕自身も、営業から進行管理に転職したことで、視野が広がりました。
進行管理として、営業の意図を読み取る力が役立つ場面は多いです。
これからの広告業界では、“分業+理解+補完”の働き方が主流になるはず。
最後に|「逆側のスキル」に挑戦する価値
いま進行管理をしている人も、営業経験を積めば絶対に強みになります。
逆に、営業の人も進行管理の大変さを経験しておくと、社内調整のスキルが格段に上がります。
一度きりのキャリア、できればどちらの視点も体験しておくと、働き方の選択肢が増えます。
「この業務、別に自分じゃなくてもできるよね」と言われるのではなく、
「この人じゃなきゃ回らないよね」と言われる存在になれるかどうかは、こうした“横断経験”にかかっています。
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